リベルタンゴとは|3+3+2の刻みと、ピアソラの意図
目次
リベルタンゴとは|意味・作曲者・ヨーヨーマの名演・楽器別の聴きどころ
リベルタンゴ (Libertango) は、アルゼンチンの作曲家アストル・ピアソラが1974年に発表した楽曲です。おそらく世界で最も演奏されているタンゴであり、チェロ、ピアノ、バイオリン、サックスと、あらゆる楽器の奏者がこの曲に挑み続けています。
この記事は、タンゴを専門とする当サイトによるリベルタンゴの解説です。曲名の意味から、生まれた背景、日本でこの曲が広まったきっかけ、楽器別の聴きどころ、楽譜の選び方まで一本にまとめました。

リベルタンゴの意味
曲名は、スペイン語のリベルタ (Libertad = 自由) とタンゴ (Tango) を組み合わせたピアソラの造語です。「自由のタンゴ」。伝統的なタンゴの様式から自分の音楽を解き放つという、ピアソラの宣言そのものが曲名になっています。
実際、この曲でピアソラは歩くようなタンゴの拍子を捨て、8分音符を3+3+2に区切る鋭いリズムを土台にしました。冒頭からうねり続けるあの推進力の正体がこれです。クラシックの曲だと思われがちですが、ジャンルとしてはタンゴを土台にした器楽曲で、書かれたのはクラシックの楽壇ではなくミラノの録音スタジオでした。
3+3+2 を実際に数えてみる
この曲を聴いたときの、前のめりに引っぱられる感じ。その正体は拍の割り方にあります。
8分音符が8つで1小節になります。普通のタンゴなら 4+4、つまり2拍子として均等に割ります。リベルタンゴはこれを 3+3+2 に割ります。
口で数えると分かります。「タタタ・タタタ・タタ」。最初の2つのまとまりが3つずつ、最後だけ2つ。この最後の2つが短いせいで、小節の終わりが前に倒れ込み、次の小節へ押し出されます。8小節も続けば、体が勝手に前へ行きます。
この割り方はタンゴが発明したものではなく、南米から中東まで広く見られるものです。ピアソラはそれをタンゴの中心に据えました。伝統派が怒ったのは、音が新しかったからではありません。踊れなくなったからです。歩幅が合わなくなる割り方だからです。
リベルタンゴは踊れるのか
踊れます。ただし社交の場で踊る曲ではありません。
ミロンガ、つまり普通の人が踊りに行く会場で、この曲がかかることはまずありません。3+3+2 は歩くための拍ではないからです。ミロンガ会場での暗黙の5つのルール に書いたとおり、あの場でかかるのは1930年代から50年代の踊るためのタンゴです。
一方、舞台の作品としては頻繁に使われます。振付を組んだ上で、リズムの緊張をそのまま身体に乗せる。フィギュアスケートで繰り返し選ばれるのも同じ理由です。聴かせる曲であり、見せる曲であって、踊りに行く曲ではない。この区別は、タンゴという言葉が指す範囲の広さそのものでもあります。
作曲者と生まれた背景
作曲者のアストル・ピアソラ (1921-1992) は、アルゼンチンのマル・デル・プラタに生まれたバンドネオン奏者です。タンゴ楽団の編曲者から出発し、クラシックの作曲技法とジャズの語法を取り込んで、踊るためのタンゴを聴くための音楽へ作り替えました。その革新は当初、本国の伝統派から激しく攻撃されています。生涯の物語は ピアソラの評伝 で詳しく読めます。
1974年、ピアソラはイタリアのミラノでアルバム「Libertango」を録音します。ヨーロッパの聴衆に向けて、電子オルガンやドラムを交えた当時最先端の編成で吹き込まれた表題曲は、それまでのどのタンゴとも違う音で世界に届きました。
世界と日本でヒットした3つの経路
リベルタンゴが世界標準になった経路は3つあります。
第一に、1981年、歌手グレース・ジョーンズがこの曲を「I've Seen That Face Before」として歌い、ヨーロッパでヒットさせました。第二に、1997年、チェロ奏者ヨーヨー・マがアルバム「ソウル・オブ・ザ・タンゴ」でこの曲を録音し、グラミー賞を受けます。第三に、日本ではそのヨーヨー・マの演奏がウイスキーのテレビCMに使われたことで、曲名を知らない人まで旋律を知っている国民的な一曲になりました。
現在も、フィギュアスケートのプログラムや映画・ドラマの劇伴として使われ続けています。
楽器別の聴きどころ
- バンドネオンはまずは本家です。ピアソラ自身の1974年版は、電子楽器の中でバンドネオンだけが人間の声のように歌います。日本では小松亮太や三浦一馬が正面から演奏しています
- チェロはヨーヨー・マ盤は歌としてのリベルタンゴの決定版です。低弦の艶がこの曲の官能を引き出します
- ピアノはソロ用の編曲が多数あり、発表会の定番です。3+3+2のリズムを左手が刻み続けられるかがすべてです
- バイオリンは川井郁子、葉加瀬太郎ら日本の奏者が繰り返し取り上げてきました。高音の切れ味が映えます
- ジャズは寺井尚子のバイオリンなど、即興を広げる素材としても愛されています
タンゴの文脈でこの曲がどこに位置するのかは、タンゴとは何か と 名盤ライブラリー で全体像がつかめます。
リベルタンゴの次に聴く3曲
この曲が気に入ったなら、次はここへ進むのが自然です。
アディオス・ノニーノ。ピアソラが父の訃報を受けて書いた曲で、リベルタンゴの鋭さとは対極にあります。同じ作曲家の、もうひとつの顔です (アディオス・ノニーノとは)。
ブエノスアイレスの四季。ヴィヴァルディの四季と組み合わせて演奏されることが多く、クラシックの奏者が最初に手を出すピアソラでもあります。
そして、ピアソラ以前を1曲。ラ・クンパルシータ を聴くと、ピアソラが何から離れようとしたのかが分かります。順番としては、この1曲を先に聴いておくほうが、リベルタンゴの意味が立ちます。
楽譜の選び方
リベルタンゴは出版されている編曲の幅が広く、選び方で難易度が大きく変わります。
- ピアノソロは中級から上級まで数種類あります。原曲の調はイ短調系で、左手のリズム保持が課題です
- 連弾は発表会人気が高く、初級向けの編曲もあります
- バイオリン・チェロはピアノ伴奏つきの譜面が定番です。無料譜は原曲と大きく違うことがあるので、比較試聴してから選ぶことをおすすめします
よくある質問
リベルタンゴとはどういう意味ですか
スペイン語の Libertad (自由) と Tango を組み合わせたピアソラの造語で、「自由のタンゴ」という意味です。伝統的なタンゴの型から自分の音楽を解放するという宣言が曲名になっています。
リベルタンゴの作曲者は誰ですか
アルゼンチンの作曲家・バンドネオン奏者のアストル・ピアソラです。1974年にイタリアのミラノで録音したアルバム「Libertango」の表題曲として発表しました。
リベルタンゴはクラシックですか
クラシックではなく、タンゴを土台にした器楽曲です。クラシックの演奏家が好んで取り上げるためクラシックの印象がありますが、生まれはタンゴの革新運動の中です。
リベルタンゴは何拍子ですか
4分の4拍子ですが、8分音符を3+3+2に区切るリズムが土台になっており、これが独特の疾走感を生んでいます。
ヨーヨー・マのリベルタンゴはどのアルバムで聴けますか
1997年のアルバム「ソウル・オブ・ザ・タンゴ」に収録されています。このアルバムはグラミー賞を受賞し、日本ではウイスキーのCMに使われたことで広く知られるようになりました。