タンゴの心臓

バンドネオン

世界で最も習得が難しい楽器のひとつに、ここで触れられます。ボタンを押せばその場で鳴ります。まず蛇腹を「開く」で鳴らし、次に「閉じる」に切り替えて同じボタンを押してみてください。

バンドネオンは、19世紀半ばのドイツで生まれ、移民とともにブエノスアイレスへ渡ってアルゼンチンタンゴの中心楽器となった蛇腹楽器です。71個のボタンを持ち、蛇腹を開くときと閉じるときで同じボタンから違う音が出ます。

蛇腹
左手 (低音・33ボタン)右手 (旋律・38ボタン)

複数のボタンを同時に押せます。スマートフォンでは2本の指で和音になります。

音の配置は標準的な142音システムの構造に基づく入門用の簡易版で、音はブラウザ内で合成しています。実機の配列は製作者や年代により細部が異なります。

押すと引くで、音が変わる

バンドネオンの最大の特徴は、蛇腹を開くときと閉じるときで同じボタンから違う音が出ることです (バイソノリックと呼びます)。つまり奏者は、71個のボタン×2方向=142の音の位置をすべて覚えます。楽譜の一つの旋律に対して、蛇腹の向きまで含めた運指を設計する。これがこの楽器の習得を険しくしている正体です。上の楽器で「開く」と「閉じる」を切り替えて、同じ場所を押し比べてみてください。

なぜボタンの並びに規則がないのか

鍵盤のドレミのような一貫した規則は、この配列にはありません。バンドネオンは19世紀半ばのドイツで、教会に持ち運べる小さなオルガンの代用として生まれ、当時のコンサーティーナ系楽器の配列を土台に、需要に応じて音を継ぎ足しながら育ちました。その歴史の地層がそのまま凍結されて標準配列になったため、合理的な設計図は存在しないのです。移民の船でブエノスアイレスに渡ったこの楽器は、20世紀初頭、タンゴの音になりました。

左右の手の役割

右手 (38ボタン) が旋律を、左手 (33ボタン) が低音と伴奏を受け持つのが基本です。ただしタンゴの名手たちは左手にも旋律を歌わせ、右手で和音を刻みます。楽器を膝に置き、蛇腹を開閉する腕の動きそのものがフレーズの呼吸になる。バンドネオンが「歌う」と言われるのは、この呼吸のためです。

学び始めるには

独学の最大の壁は配列の暗記ではなく、蛇腹のコントロールです。最初の数ヶ月は音階と開閉の練習に費やされます。教師につくのが理想ですが、日本にも教室があり、オンラインレッスンも増えました。楽器は中古の実機が数十万円からで、タンゴで標準とされるのは142音のドイツ製ヴィンテージです。まず本物の音を聴き込むこと。それが最初の一歩として最良です。

よくある質問

なぜタンゴはバンドネオンの音になったのですか

移民とともにブエノスアイレスへ渡り、20世紀初頭にタンゴの編成へ定着しました。人の声に近い持続音と、蛇腹の呼吸がタンゴの歌心と噛み合ったこと、そして酒場の夜に十分な音量が出たことが理由として語られます。

ピアノやアコーディオンが弾けると有利ですか

音楽の基礎は役立ちますが、鍵盤の経験は配列の助けにはなりません。アコーディオンとも配列も発音の仕組みの感触も異なり、ほぼ新しい楽器として向き合うことになります。

左右で同じボタン配置ですか

いいえ、左右で完全に別の配列です。右手38・左手33ボタンで、それぞれに開閉2通りの音があります。

あわせて読む