バルデス半島|クジラを船と陸から見る、時期と方法

目次
バルデス半島は、パタゴニア大西洋岸に突き出た、海の野生動物の一大聖域です。冬から春にかけてミナミセミクジラが子育てのために湾に集まり、体長15mの巨体が船のすぐ横で呼吸を繰り返します。1999年に世界遺産に登録された、南米で最も確実にクジラと出会える場所です。
クジラだけではありません。ゾウアザラシとアシカの繁殖地、数十万羽のマゼランペンギン、そして浜に乗り上げてアシカを狩るシャチ。半島とその周辺は、季節ごとに主役が入れ替わる巨大な野生の劇場です。
ホエールウォッチング: 時期と場所
- 時期は6月から12月。ピークは9月と10月で、母子のクジラが湾内のあちこちに浮かびます
- 場所: 半島の付け根の村プエルト・ピラミデスから船が出ます。所要約1時間半
- 見え方はこの海のクジラは船を怖がりません。息継ぎの音が聞こえる距離で、尾びれ、ブリーチング (ジャンプ)、そして好奇心で船に寄ってくる個体まで見られます
- 陸からも見えるはシーズン中は、プエルト・マドリンの海岸沿いからも沖のクジラの背中と潮吹きが肉眼で見えます
対象のミナミセミクジラは、乱獲で激減した後にこの海域で回復した種で、バルデス半島はその世界最大級の繁殖地です。
ミナミセミクジラという生き物
バルデス半島で見えるのは、ミナミセミクジラ (ballena franca austral) です。
体長は15メートル前後、重さは50トンほど。頭部に硬い皮膚の隆起があり、そこにフジツボや白いクジラジラミが付いて模様のように見えます。この模様は個体ごとに違い、生涯変わりません。研究者はこれで一頭ずつを識別しており、この半島では1970年代から4,000頭以上が台帳に記録されています。同じ母親が数年おきに同じ湾へ戻ってくることも、この記録からわかっています。
背びれがありません。海面に浮いた黒い塊がゆっくり動いているように見えるのは、そのためです。噴気は二本に分かれてV字に上がります。遠くからでも、この形で種がわかります。
なぜ人を恐れないのか。この湾は繁殖と子育ての場で、餌を追う必要がありません。子どもは好奇心が強く、船に寄ってきて背中をこすりつけます。母親はそれを止めません。ここで見られるのは、警戒を解いた状態のクジラです。
セミクジラという名は、英語の right whale (正しい鯨) と同じ発想から来ています。泳ぎが遅く、脂肪が厚くて死んでも沈まないため、捕鯨の時代に「捕るのに正しい鯨」とされました。そのために激減し、南半球の個体数は一時300頭ほどまで落ちています。現在は回復に向かっていますが、それでも世界で2万頭前後です。
半島が1999年に世界自然遺産となったのは、この回復の場としての価値によるものです。
ホエールウォッチングは船か陸か
ホエールウォッチングには二通りあります。
船で出るのはプエルト・ピラミデスからです。所要はおよそ90分、湾内を回ります。エンジンを切って漂うと、クジラのほうから寄ってきます。5メートル以内に浮上することがあり、呼気の音と匂いが届きます。船は座席が低く、目線が水面に近いのが利点です。
陸から見るなら、エル・ドラディージョ (El Doradillo) という浜です。プエルト・マドリンから車で20分ほど、入場料も予約も要りません。この浜は岸のすぐ先が急に深くなっており、母子が浅瀬まで入ってきます。岸から数十メートルの距離で見えることがあります。7月から9月がとくに近く、干潮の前後2時間が狙い目です。
船に酔いやすい方、小さな子どもを連れている方は、まず陸から見ることをおすすめします。天気が悪くて船が出ない日でも、浜は開いています。
服装と持ち物
10月でも半島の海風は冷たく、船の上では体感が5度ほど下がります。
防風の上着は必ず要ります。フリースの上にウインドブレーカーを重ねる形が扱いやすく、脱ぎ着で調節できます。手袋と帽子も、船の上では効きます。日差しは強いので、日焼け止めとサングラスも別に必要です。パタゴニアは寒さと日差しが同時に来ます。
双眼鏡は8倍から10倍が扱いやすい範囲です。船の上では揺れるため、これより高倍率は像が定まりません。陸から見るなら倍率が高いほうが有利で、三脚に載せられるものが向きます。
カメラは望遠があるに越したことはありませんが、船では200ミリ程度で十分に大きく写ります。しぶきがかかるので、防水のケースか、拭ける布を持っていってください。
クジラ以外の主役たち
| 動物 | 見頃 | 場所 |
|---|---|---|
| ミナミセミクジラ | 6〜12月 | プエルト・ピラミデス沖 |
| シャチ (浜への突進猟) | 2〜4月・10月 | プンタ・ノルテ |
| マゼランペンギン | 9〜3月 | プンタ・トンボ (半島南方) |
| ミナミゾウアザラシ | 通年 (繁殖は9〜10月) | 半島東岸 |
| グアナコ・ダーウィンレア | 通年 | 半島内陸 |
シャチが波打ち際のアシカの子を狙って浜に乗り上げる「意図的座礁」は、世界でもこの半島でしか安定して観察されない狩りです。ただし目撃は運と長い待機が必要で、旅程の主目的にはしないのが賢明です。
半島の南、プンタ・トンボは大陸最大級のマゼランペンギン営巣地で、遊歩道のすぐ横をペンギンが歩きます。ペンギンの生態は ペンギンの種類一覧 でどうぞ。
拠点の街プエルト・マドリンと行き方
- 拠点は海岸都市プエルト・マドリン。ホエールウォッチングと半島ツアーはここ発が基本です
- 飛行機はブエノスアイレスからトレレウ空港へ約2時間、そこから車で約1時間。プエルト・マドリン空港への便もあります
- 半島の回り方は半島内は未舗装路が長いため、レンタカーか一日ツアーで回ります。日本語予約は KKday にも商品があります
世界の現地ツアーや体験を日本語で予約できるサイトです。アルゼンチンのページには空港送迎やタンゴ関連、イグアス方面のプランが日本語で並び、口コミと空き状況を見て申し込めます。スペイン語や英語での予約に不安がある人の選択肢です。
ホエールウォッチングと半島ツアーの日本語予約に使えます。クジラは6〜12月限定なので、日程優先で押さえてください。
- 日数はホエールウォッチング+半島一周で最低2日。ペンギンのプンタ・トンボを足すなら3日です
- 組み込み方はクジラの季節 (6〜12月) なら、観光モデルコース のイグアスと入れ替える価値があります
ウェールズ移民の街: トレレウとガイマン
この地方には、1865年にウェールズから入植した人々の子孫が今も暮らしています。ガイマンの村ではウェールズ語の看板と伝統のティーハウスが残り、アフタヌーンティーを楽しめます。アルゼンチンにウェールズの村がある理由は アルゼンチン移民史 で解説しています。トレレウには南米最大級の恐竜博物館もあり、雨の日の選択肢になります。
クジラを見る道具
地図で見る動くバス・地下鉄・治安・見どころを1枚で。入れるものは要りません
よくある質問
ミナミセミクジラはどのくらいの大きさですか
体長15メートル前後、重さ50トンほどです。背びれがなく、頭部の隆起にフジツボが付いた模様が個体ごとに違うため、研究者はこれで一頭ずつを識別しています。
船に乗らずにクジラを見られますか
見られます。プエルト・マドリンから車で20分のエル・ドラディージョという浜は、岸のすぐ先が急に深く、母子が浅瀬まで入ってきます。入場料も予約も要りません。7月から9月がとくに近づきます。
船からの距離はどのくらいですか
エンジンを切って漂うとクジラのほうから寄ってきます。5メートル以内に浮上することがあり、呼気の音が届きます。所要はおよそ90分です。
どんな服装で行けばよいですか
10月でも船の上は体感が5度ほど下がります。防風の上着、手袋、帽子が要ります。同時に日差しが強いので日焼け止めとサングラスも必要です。
双眼鏡は必要ですか
船では8倍から10倍が扱いやすい範囲です。揺れるためこれより高倍率は像が定まりません。陸から見る場合は高倍率で三脚に載せられるものが向きます。
バルデス半島のクジラはいつ見られますか
6月から12月で、ピークは9月と10月です。ミナミセミクジラが子育てのために湾に集まり、船から至近距離で観察できるほか、シーズン中は海岸からも沖のクジラが見えます。
バルデス半島への行き方を教えてください
ブエノスアイレスから飛行機で約2時間のトレレウ空港が玄関口で、拠点の街プエルト・マドリンまで車で約1時間です。半島へはプエルト・マドリン発の一日ツアーかレンタカーで回ります。
バルデス半島は何日必要ですか
ホエールウォッチングと半島一周で最低2日、ペンギン営巣地のプンタ・トンボを加えるなら3日が目安です。
シャチが浜に乗り上げる狩りは見られますか
2〜4月と10月頃、半島北端のプンタ・ノルテで観察例がありますが、目撃には運と長時間の待機が必要です。旅程の主目的にはせず、見られたら幸運と考えるのが現実的です。
バルデス半島はなぜ世界遺産なのですか
ミナミセミクジラの世界最大級の繁殖地であることに加え、ゾウアザラシ、アシカ、ペンギンなど海洋哺乳類と海鳥の保全上きわめて重要な生息地であるためです。1999年に自然遺産として登録されました。